湿気を逃がして建物を守る 世田谷ビル屋上防水工事①

今回は世田谷区で行った屋上防水改修工事をご紹介します。

築年数を重ねた建物では、防水層のひび割れや下地の浮きなど、さまざまなサインが少しずつ姿を見せ始めます。
今回の現場もまさに同じ状況で、既存のウレタン防水に破断が多く、湿気が下地に溜まっていることが想定されました。

そんな時に力を発揮するのが、下地に空気の通り道をつくる 「通気緩衝工法」 です。
建物の状態をしっかり読み取りながら、どうすれば長く安心して使える屋上にできるのか——
その答えを職人と共に探り、ひとつひとつの工程を丁寧に積み重ねていきました。

目次

現調:既存ウレタン防水の破断を確認し、通気工法を選択

現調の段階でまず目についたのが、平場に複数見られたウレタン防水の破断です。
破断があるということは、防水層が伸縮に耐えられず裂けてしまった状態。そこから雨水が入り込み、下地の樹脂モルタルに湿気を溜めてしまう原因になります。

ALC(軽量気泡コンクリート)下地は水分を含みやすいため、湿気を閉じ込めてしまう密着工法よりも、湿気を逃がす工法のほうが建物に優しい選択です。
こうした背景から、今回は 通気緩衝工法 をご提案しました。

破断部撤去:浮いた樹脂モルタルも丁寧に取り除く

既存防水層の破断部分を撤去していくと、以前の施工で使われていた樹脂モルタルが浮いている箇所も確認できました。
見た目では分かりづらいのですが、金づちで軽く叩くと「コンコン」と軽い音がして浮きを教えてくれます。

浮いたままの下地の上に新しい防水をかけても、いずれそこが弱点となり膨れが発生してしまいます。
そのため、浮きがある部分は全て撤去し、健全な下地だけを残すよう丁寧に作業を進めました。

左官平滑処理:樹脂モルタルで新しい下地を整える

撤去作業が終わると、樹脂モルタルを使って下地の平滑処理を行います。

ALC は吸水性が高く、少しの歪みでも仕上がりに影響が出るため、左官処理はとても重要な工程です。

表面がきれいに整うことで、この後に貼る通気シートやウレタン材がムラなく密着し、強い防水層がつくれます。

関連動画

通気孔開け:脱気筒につながる湿気の出口を準備する

通気緩衝工法の特徴は「湿気を逃がす仕組みを屋上に作ること」。
その要となる脱気筒を取り付けるため、まずは貫通口を開けていきます。

旧防水層の内部に溜まった湿気は、この通気孔を通って脱気筒に集まり、外へ排出されます。
これによって防水層の膨れや破断を防ぎ、長期間安心して使える屋上になります。

ケレン・清掃:密着性を高めるための下地づくり

通気孔をつくり終えたら、屋上全体をケレンし、細かな粉じんや弱い部分を取り除きます。

ケレン作業は地味ですが、防水工事において非常に重要な工程です。
この段階でどこまで丁寧に仕上げられるかが、最終的な耐久性に大きく関わります。

層間プライマー塗布:新しい層を確実に密着させるために

今回は既存防水との相性を考慮し、層間プライマーを使用しました。


プライマーは簡単に言うと「次の工程と下地を接着させる役割」を持っています。

温度や湿度によって吸い込み具合が変わるため、塗布量の調整には経験が必要です。
均一に塗ることで、この後に施工する AV シートやウレタン材がしっかり機能します。

関連記事

AV シート張り:湿気を逃がすための“空気の通り道”を作る

AV ボンドをローラーで均一に塗布し、通気緩衝シート(AV シート)を貼っていきます。


このシートの役割は、下地と防水層の間に「空気の層」をつくること。
これにより、下地の余分な湿気が防水層を持ち上げることなく外へ排出できます。

シートは一度貼り始めると後戻りができないため、たるみや空気噛みがないよう慎重に施工します。

ここまでの工程は、既存防水層の問題点を丁寧に取り除き、建物に無理のない状態へ整えることを最優先に進めてきました。

このあとの工程は、屋上が呼吸できる構造をより確実なものにするための、仕上げに向けて進んでいきますが、続きは後編でご紹介します。ぜひ次回もお読みください。

目次