東京都世田谷区にあるマンションの屋上防水工事を担当しました。年数が経ちそろそろ防水が限界を迎えつつあるタイミングでした。ここでは、現場で実際に見て触って、どんな判断をしてどんな工事を組み立てていったのか、ご紹介したいと思います。
既存ウレタンを見て思うこと
屋上に上がってまず目に飛び込んでくるのは、黒くなったウレタン防水でした。
これはトップコートを長いこと塗り替えていないと、紫外線で表面がどんどん削れて、結果的にウレタンの素地が露出して黒く見えてしまうものです。
履歴はわからないのですが、水が溜まって乾いた跡なんかを見ると、トップコートが完全に飛び散ったあとと感じました。
「しばらくメンテナンスされていなかったんだな」と、状態を見ればだいたいわかります。
ただ、この段階では“防水層そのものが完全にダメになっている”とは限らないです。
実際に今回も、部分的に切れているところはあるものの、全体が崩壊しているわけではありませんでした。表面のトップコートが年数によって削れた状態です。
見た目だけだと「これはひどい状態だ」と思われるかもしれませんが、実は表面が荒れているだけで、防水層自体はまだ生きている部分も多いです。
ただし、立ち上がりのコーナーや入隅、屋上と壁の取り合い部分はやはり弱点になりやすいので、細かくチェックしていきます。こういう細部は年数が経つと必ず何かしらの劣化が出るところです。
「ひどくないけど、このまま放置すれば確実に悪化する」そういう位置づけの現場でした。
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下地処理で最も気にするのは
密着工法で既存防水を再生していく場合、いちばん大事なのは下地処理です。
どんなに良い材料を使っても、下地が悪ければすべてが無駄になります。
屋上で必ず見るポイントは二つです。
1つ目はコーナーや立ち上がりの切れ。
ここは建物が揺れたり温度で膨張したりする影響をもろに受ける部分なので、切れが出やすいです。補強クロスを入れるか、シーリングを打つか、状況に合わせて補強します。
2つ目は膨れ。
既存防水の内部に水蒸気が残っていると、上から塗ってもまた膨れます。
膨れはほぼどの現場にもあります。今回も例外ではなく、小さな膨れがあちこちに見られました。これを放置して仕上げると、完成直後からトラブルの原因になるので、必要なところを丁寧に切開して処理します。
屋上のシーリング
屋上防水の現場で意外と多いのが、「そもそもシーリングが打たれていない」パターンです。
外壁では当たり前に行うシールですが、屋上では省略されているケースが案外多い。
今回のマンションでも、シール跡が打ってあっても、すでに口が開いていたり、薄っすら残っている程度だったりでした。コーナー部は防水層が切れやすいので、基本的に必ずシーリングを入れます。
三角に盛る“入り済みシール”を打つと、防水材を受け止める面が安定します。
もし既存のシールが浮いていなければ増し打ちで済ませますが、切れていたり口が開いていれば切開して打ち替えます。
「見た目だけ直す」のではなく、数年後に再び切れないように厚みをもって整えるのが大切です。
層間プライマー
今回使ったプライマーはサラセーヌのP-60。
ウレタンの密着工法には、多く使う層間プライマーです。
これはメーカーが違ってもほぼ同じ役割で、“古い防水層と新しい防水層をしっかり密着させるためのもの”です。もしこれを塗らずに作業すると、どんなに上手く塗っても剥がれや浮きが起きます。
密着工法では絶対に外せない工程です。
ウレタン防水では1層目・2層目を重ねて規定膜厚を作りますが、現場ではただ“規定量を撒けばいい”という単純な話ではありません。
1層目は凹凸が残っているので、材料がそこそこ食われます。2層目になると、表面が滑らかになっているので同じ量を使っても伸びが良いのです。経験がないと2層目を撒きすぎてしまい、ドレン方向に材料が流れてしまうという失敗が起きます。
ウレタンは自己レベリングの性質があるので、撒きすぎると重力で動きます。
壁に塗料を塗って垂れるのと同じ現象が床面でも起こります。仕上がりを左右する部分なので、2層目は特に気をつけて調整します。
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密着工法の良さと難しさ
今回行った「ウレタン塗膜防水密着工法」は、既存の防水層がある程度生きている時に選ぶ工法です。メリットとしては、費用を抑えられること。撤去が不要なので廃材も少なく、工期も短い。ただし、デメリットは下地が悪いと不具合が出やすい点。
内部に水分を含んでいると膨れが起きやすく、既存の傷みが強いと密着不良の原因にもなります。だからこそ、現地調査のときに「どこまで既存が使えるか」「どこを補強すべきか」を見極めないといけません。お客様の予算との兼ね合いもあるので、現場とお客様の両面を考えて工法を決めるのが我々の仕事です。
現場を振り返って
このマンションの屋上は、表面の傷みが目立つ割に、防水層そのものはまだ再生可能な状態でした。
ただし、コーナー部の切れ、細かな膨れ、シーリングの不在など、手を入れるべきポイントがいくつかありました。
こうした部分を丁寧に補強し、プライマーで密着を確保し、ウレタンを2層しっかり流すことで、屋上の防水性能は再び蘇ります。
防水工事は派手な作業ではありませんが、「どこが弱点なのか」「どこまで再生できるのか」を読み取る“観察力”と、それを形にする“技術”が問われる仕事です。今回の工事も、そうした積み重ねが大事だと感じる現場でした。
