墨田区に佇む、築33年のオフィスビル。建物全体の印象を左右する大切な場所でありながら、普段なかなか目が届かないのが「塔屋」です。屋上防水工事と並行して行われたのは、この塔屋の防水改修工事。建物の「てっぺん」を健全に保つことが、いかに建物の寿命や資産価値に繋がるか、今回の工事の様子を追いながら、その重要性を詳しくご紹介します。
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施工前 厳しい環境下にある現状
こちらが工事前の塔屋の写真です。築33年という年月を経て、屋上とはまた異なる環境に置かれていました。屋上の一部には人工芝がありましたが、塔屋にはありませんでした。人工芝の有無が直接的な劣化の原因となるわけではありませんが、重要なのはコンクリート自体の状態、つまり「アルカリが抜けているか、酸性化しているか」です。コンクリートの中性化が進むと劣化しやすくなります。
この塔屋は、あまり人が立ち入らない場所であったためか、排水溝の周りには草が生い茂っていました。これはメンテナンスが行き届いていなかった状態を示しており、このまま放置すれば排水不良による水溜まりが発生し、防水層や建物自体に大きなダメージを与えるリスクを抱えていました。
高圧洗浄 健全な下地を取り戻す
次に、溜まった汚れや草を撤去し、高圧洗浄を行っている様子です。排水溝の周りの草もきれいに取り除かれ、排水溝が機能していなかった状態が解消されています。高圧洗浄は単に見た目をきれいにするだけでなく、防水層の密着性を高めるための大切な下地処理工程です。
長年の汚れ、苔、脆弱な旧防水層などをしっかりと洗い落とすことで、次に塗布する下地調整材や防水材がコンクリートにしっかりと定着するための「受け皿」を作ります。
下地調整 丁寧な仕事が防水層を支える
洗浄・乾燥後、下地調整を行います。ここではカチオン系樹脂モルタルが使用されました。この材料は、古いコンクリート下地との密着性を高める効果があり、既存部分と新規の材料をしっかりと結合させるために非常に有効です。立ち上がり部分をローラーで、平場を金鏝で作業しています。
平場に金鏝を使う理由の一つは、「平滑に仕上げることで、次に塗る防水材の材料の食い込みを抑え、無駄なく均一な厚さを確保するため」です。材料を無駄にしないことはコスト効率にも繋がり、結果的に「お得」に繋がる側面もあります。
また、この下地調整では、ひび割れ(クラック)なども同時に処理します。今回はカチオン系樹脂モルタルでクラックを含めて処理していますが、クラックは後から再発することもあり、完璧に止めるのは難しい場合もあります。しかし、こうした下地処理を丁寧に行うことで、防水層にかかる負担を軽減し、耐久性を向上させることができます。
プライマー塗布 密着を確実にする接着剤
下地調整材の硬化後、プライマーを塗布します。プライマーは、下地調整材と次に塗る防水材との接着を強化する役割を果たします。
これを「食いつき」や「付着性」を向上させると言います。立ち上がりと床面にプライマーが塗られています。
クラック処理部分でプライマーの乾きが悪く、変な固まり方をしているのではないかという懸念がありました。これは、もし密着工法であれば問題になりやすい点ですが、今回は次に解説する「通気緩衝工法」を採用しているため、ある程度許容される側面があります。しかし、どのような工法であっても、プライマーは防水層が下地から剥がれるのを防ぐ重要な役割を担っています。
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QVシート貼付け 下地の動きに追随
今回の工事で採用されたのは、通気緩衝工法です。
QVシートと呼ばれる通気層シートを貼り付けている様子です。この工法は、下地と防水層の間に通気層を設けることで、下地の微細な動き(ひび割れや膨張収縮など)や、下地からの湿気の上昇を防水層に直接伝えないようにする目的があります。
これにより、防水層の破断や膨れのリスクを軽減し、防水層を長持ちさせることができます。特に改修工事では既存下地の状態が均一でない場合も多いため、通気緩衝工法は非常に有効な選択肢の一つです。
ただし、この工法でもいくつかの注意点があります。シートの端部、特に立ち上がりや入り隅部分は非常に重要です。風の影響を受けやすい箇所であり、端部が剥がれると全体の剥離に繋がるリスクがあります。資料にもあるように、通気緩衝シートの端部は「密着層」とする必要があり、手でしっかりと圧着することが求められます。
また、入り隅からの距離も、基準とされる距離(3cm~5cm程度)を確保することで、シートにかかる応力を分散させるなどの効果が期待できます。
補強クロス(X-2工法) 強度を高める
補強クロスを貼り付けている様子です。補強クロスは、ウレタン塗膜防水の「X-2工法」(密着仕様)などで、ひび割れやすい箇所や、立ち上がりの入隅・出隅、ドレン周りなど、特に防水層に負担がかかりやすい部分に挿入し、防水層の強度とひび割れ追従性を高めるために使用します。これにより、防水層が破断するリスクを低減し、防水層全体の耐久性を向上させることができます。
改修ドレン設置 排水機能の回復
さて、今回の工事で特に注目したいのが、「改修ドレン設置」です。工事前は排水溝が草で詰まり、ほとんど機能していませんでした。防水層にとって、水溜まりは最大の敵の一つです。水が長時間滞留すると、防水層が劣化しやすくなり、漏水の原因となります。適切な排水機能を確保することは、防水層を長持ちさせるために非常に重要なのです。
今回の工事では、既存の排水ドレンを撤去せず、その上から新しい「改修ドレン」を設置する工法が取られました。改修ドレンは、既存ドレンの中に差し込む筒状の部分と、防水層と一体化させるためのフランジ(つば)部分から構成されており、既存ドレンの上にかぶせるように設置します。これにより、建物への負担を最小限に抑えつつ、スムーズな排水経路を確保し、新しい防水層としっかりと一体化させることができます。
改修ドレンの設置にあたっては、ドレン本体と防水層のフランジ部分を適切に接合し、隙間なく防水層と一体化させることが非常に重要です。
築33年のオフィスビル塔屋では、長年放置されていたことで排水不良や劣化が進行いました。。高圧洗浄で雑草と汚れを除去し、下地調整やプライマー塗布など丁寧な準備工程を経て、通気緩衝シートと補強クロスの貼付まで完了しました。
これにより湿気を逃がし、動きやすい構造への応力を抑える下地が整いました。次回の後編では、いよいよ防水層本体の構築に入ります。防水の機能性を支える“要”ともいえる、排水システムの整備へと進んでいきます。後編をお楽しみに。
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