施工の見どころ
築年数を重ねたRC造マンションでは、外壁や共用部と同様に、屋上防水の劣化が建物全体の耐久性に大きく影響します。特に屋上は、紫外線・降雨・温度変化を直接受ける部位であり、防水層の劣化は避けられません。
今回ご紹介するのは、東京都港区にあるRC造マンション屋上で実施した伸縮目地を中心とした線防水工事の施工事例です。全面防水ではなく、劣化が顕在化している部位を限定的に補修する判断に至った背景と、実際の施工内容を専門的な視点で解説します。
現地調査で確認された劣化状況と判断のポイント
現地調査では、以下の劣化症状を確認しました。
①伸縮目地部における防水層の破断
②既存ウレタン防水層の経年硬化
③クラックに沿った汚染(雨水浸入履歴を示唆)
④雨後における排水不良および滞水跡
特に伸縮目地は、構造体の動きを吸収するために設けられている反面、防水層にとっては最も応力が集中しやすい部位です。ウレタン防水は追従性に優れるものの、経年による可塑性低下が進行すると、目地部で破断が起こりやすくなります。
また、既存屋上には脱気筒が設置されており、過去に通気緩衝工法が採用されていた可能性が考えられました。そのため今回の補修では、既存防水層を大きく乱さず、局所的に防水性能を回復させる方針を採っています。
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線防水という選択肢について
線防水は、劣化が集中している部位(主に伸縮目地・クラック・端部)に限定して防水層を再構築する工法です。
全面防水と比較すると
①工期が短い ②コストを抑えられる ③既存防水を活かせる
といったメリットがあります。一方で、建物全体の防水寿命を延ばす工法ではないため、中長期修繕計画の中で位置付ける必要がある補修工法と言えます。
ケレン・清掃(下地調整工程)
まず行ったのは、伸縮目地周辺の下地調整です。
既存ウレタン防水層の劣化部、浮き、脆弱化した塗膜をケレンにより除去し、健全部まで確実に露出させます。
この工程は、線防水において最も重要な工程のひとつです。
下地処理が不十分な状態で新規防水材を施工すると、既存層との界面剥離を起こしやすく、短期間で再劣化を招きます。
プライマー塗布(接着性の確保)
下地調整後、既存防水層と新規ウレタン防水材の接着性を確保するため、専用プライマーを塗布します。
既存防水がウレタンである点を踏まえ、可塑剤移行や相溶性にも配慮し、塗布量・乾燥時間を管理しながら施工しています。プライマーの塗布ムラは、防水層の性能低下に直結するため、細部まで均一な施工を徹底しました。
ガラスクロス補強(応力集中部の補強)
クラックおよび伸縮目地部には、ガラスクロスによる補強を行いました。
今回は捨て塗り込み工法を採用し、防水材を塗布しながらクロスを伏せ込むことで、下地との一体化を図っています。
今回は「捨て塗り込み工法」を採用し、防水材を塗り込みながらクロスを伏せ込むことで、密着性と追従性を高めています。ガラスクロスは、ひび割れの再発防止に欠かせない工程です。
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ウレタン防水 一層目
補強後、ウレタン防水材の一層目を塗布します。
線防水のため、施工範囲は伸縮目地を中心に必要最小限としていますが、
膜厚が不足しないよう均一に施工しています。
ウレタン防水 二層目
続いて二層目を施工します。
一層目と二層目を重ねることで、防水層として必要な膜厚と強度を確保します。
塗り重ねのタイミングや硬化状態を見極めながら、
ムラや凹凸が出ないよう仕上げていきます。
線防水であっても、膜厚不足は防水性能に直結するため、
全面防水と同等の品質基準を意識した施工管理を行っています。
トップコート塗布(耐候性の確保)
防水層保護のため、トップコートを塗布しました。
トップコートは紫外線劣化を防ぎ、防水層の耐用年数を左右する重要な工程です。
特に屋上は紫外線負荷が高いため、トップコートの選定と塗布精度は、防水性能維持に直結します。
笠木部(パラペット)のクラック補修
笠木部にもクラックが確認されたため、Vカット工法による補修を実施しました。
笠木は雨水侵入の起点になりやすく、屋上防水と同時に対策しておくことで、漏水リスクを大きく低減できます。
まとめ 線防水をどう位置付けるか
今回の線防水工事は、
既存防水層を活かしつつ、劣化が顕在化している部位の防水性能を回復させる補修です。
線防水は、①修繕周期の延命 ②全面防水までのつなぎ ③局所的な漏水リスクの低減
といった目的には有効ですが、恒久的な対策ではありません。
管理組合様・オーナー様には、
「今回の線防水で何年持たせるのか」「次回は全面改修か部分補修か」
といった中長期視点での修繕計画を併せて検討することが重要です。
