施工の見どころ

東京都世田谷区にある築33年のRC造ビル。今回は、老朽化による再三の雨漏りに悩まされてきたこの建物の屋上にて、ウレタン塗膜防水(通気緩衝工法)による改修工事を実施しました。
調査の結果、既存のゴムシート防水の下には複数の防水層が重ねられており、施工ごとの相性不良や不完全な下地処理が蓄積していたことが判明。改修にあたっては、すべての旧防水層を撤去し、下地補修からトップコートまで一切の妥協なく進めました。
以下にその詳細な工程をご紹介します。
笠木撤去と端部の露出

まずは屋上の立上りに設置されていたアルミ製笠木を撤去。防水層の端末部分やステー(支持金具)が露出し、錆びや浮きが確認されました。
立上りは雨水の侵入リスクが高い箇所であるため、後工程の防水端末処理がしっかり行えるよう、隅々まで確認します。
旧防水層(ゴムシート)撤去

既存のゴムシート防水は、長年の劣化によって接着剤が硬化・剥離し、シート自体も硬くなっていました。短冊状に切込みを入れ、手作業と専用スクレーパーで丁寧に剥がします。
粘着剤やブチルテープの痕跡も見逃さず除去。特にドレン周辺はブチル材が厚く残っていたため、時間をかけて完全に取り除きました。
撤去により下地の状態が露わになり、多数の微細なひび割れや欠損が確認されました。
ケレン・清掃による下地調整

防水材の接着性を高めるため、全面にわたってケレン作業を実施。浮き・埃・旧接着剤の残渣を電動工具と手作業で除去したのち、ブロアーで粉塵を吹き飛ばし、コンクリート面をクリーンな状態に整えました。
カチオン系樹脂モルタルによる下地補修

下地補修には、カチオン系樹脂モルタルを使用。ヘラで凹部に充填しながら全体を平滑に均し、下地の吸水やアルカリ性成分による防水材への影響を遮断します。
コンクリートの動きにも追従しやすく、今後の防水層の浮きや剥がれを防ぐ意味でも重要な工程です。
プライマー塗布

新たな防水層と下地の密着性を高めるため、プライマーを全面に塗布。使用したのはウレタン塗膜防水専用の2液型プライマーで、立上りや入隅など重点的にローラーと刷毛で塗り込みました。
乾燥時間を厳守し、指触確認で完全乾燥を確認してから次工程へ進みます。
改修用ドレンの取り付け

排水性能を高めるため、既存排水口に鉛製の改修ドレンを新設。既存配管とジャバラホースで接続し、構造的な揺れや動きにも柔軟に対応できるようにしました。
確実に固定した後、漏水リスクのある取り合い部分には後の補強を予定。
QVシート貼付(通気緩衝工法)

防水層下に空気層を持たせる通気緩衝工法を採用。下地にプライマーを再塗布した後、点接着のQVシートを丁寧に敷設。
重ね幅を適切にとり、立上り部や端末部は浮きや剥がれが出ないよう念入りに圧着します。
QVテープと転圧処理
シートの継ぎ目には専用のQVテープを貼り、密閉性を確保。さらにローラーを使って全体を転圧し、ブチル層を押しつけて下地への接着を確実にしました。仕上がりを目視確認し、浮きやシワのない状態を確認して次へ。


脱気筒の設置

脱気筒を設置し、防水層内にこもる湿気を逃がすルートを確保。
専用ドリルで穴をあけ、アンカー固定にてしっかり設置。機能確認も行い、効果的な配置となっていることを確認しました。
MBテープ貼り:端部の補強

ガラスクロス貼付:補強の徹底
シート端末や立上りとの取り合い部にMBテープを貼り、防水の端部処理を強化。浮きや剥がれを防ぐと同時に、下地との一体化を図る目的もあります。ガラスクロス貼付:補強の徹底

立上り部、脱気筒周囲、ドレン周囲など、応力が集中しやすい部分にガラスクロスを貼り付けて補強。液状樹脂を塗布しながらクロスを密着させ、繊維が完全に埋まるまで塗り重ねました。異素材との取り合い補強も同様に対応。
ウレタン塗膜防水(1層目・2層目)


防水の主材となるウレタンK材を使用し、まず1層目を金鏝とローラーで均一に塗布。
乾燥硬化後、2層目を同じ方法で重ね塗りしました。2層合計で3mm以上の膜厚を確保し、メーカー基準を満たすよう膜厚計で測定を行いながら丁寧に仕上げています。
遮熱トップコート

紫外線や熱から防水層を守るため、遮熱タイプのトップコートを塗布。
反射率が高く、屋上温度の上昇を抑制できる性能を持つサラセーヌTフッ素サーモを採用しました。ムラが出ないよう均一に仕上げ、コーナーや立上り部は特に丁寧に処理。
トップコート仕上げ
さらに耐久性を高めるため、保護トップコートを重ね塗り。摩耗や紫外線による劣化を抑え、より長期間にわたって防水性能を維持できる仕上がりとしました。

完了:繰り返す雨漏りに終止符を
複数の旧防水層が重なっていたこの現場では、完全撤去と下地補修が最も重要なポイントでした。適切な下地処理と通気緩衝工法の採用により、湿気や膨れ、接着不良といった過去の問題を根本から解消。全行程において妥協のない施工を徹底し、安心できる防水性能を実現することができました。
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